2017.03.07

Interview

物流で生産者とアジアを結び、北海道の未来をつくる

物流と聞いて、何を思い浮かべますか? 真っ先にイメージするのは、やはりトラックで荷物を運ぶことではないでしょうか。29歳で現在の「北海道物流開発株式会社」を設立した斉藤さんは、「物流とは情報処理」だと言います。果たして、物流の仕事とは何なのか。どんなビジョンを描いているのか。そして、斉藤さんを突き動かしている原動力は何なのか。その思いを語っていただきました。

profile

  • 北海道物流開発株式会社 代表取締役会長

    斉藤 博之(さいとう ひろゆき)

    高校を卒業後、自動車整備士として勤務。その後、自動車の営業を経て、24歳の時に運送会社のトラックドライバーに転職、物流の世界へ入る。低温物流事業で国内最大手の食品メーカーの配送を担当する中で、運送効率を上げるための「共同配送事業」に着目し、1998年に「北海道物流開発」を設立。現在、北海道の物流拠点の整備を進めながら、シンガポールを中心にアジアへと事業展開の場を海外にも広げている。2016年4月、札幌商工会議所青年部の初代会長に就任。

物流は荷物を運ぶだけではない。品質を保ち、効率よく運ぶ仕組みを構築する

―― そもそも物流の仕事とは、どのようなものでしょうか?

物流とは、ある地点から別の地点まで荷物を移動すること。工場に原材料を運ぶ、そこで製造された商品を倉庫や冷蔵庫へ運ぶ、そこからさらに小売店へ運ぶ、小売店から消費者へ商品を運ぶ、どれも物流の仕事です。また、廃棄物を回収するといったことも物流になります。では、「輸送」「配送」といった運ぶことそのものだけが仕事なのか。実は違います。

商品を適正な管理のもと一定期間、倉庫に置いておく「保管」、商品を梱包したり、荷札を貼ったりする「流通加工」も、全て物流の領域です。「品質管理」も重要で、特に食品を扱う場合は、それぞれの商品に適した温度を維持しなければなりません。そして、この一連の流れは、情報システムを使って管理します。

このような仕事をしているのが物流会社です。2つのタイプがあって、倉庫や冷蔵庫、トラック、情報システムなどを自社で持っている「アセット型」と、そういったものを持たずにノウハウを提供する「ノンアセット型」。北海道物流開発は、ノンアセット型の企業です。


どんなことをしているのかというと、荷主と呼ばれる荷物の所有者と、倉庫やトラックを持っている物流業者を取り結んでいます。荷主の荷物を効率的に運ぶためにどうすべきかを考えて、最も適した業者に輸送を依頼するのです。企業同士をマッチングさせるコーディネーターであり、荷主にとってはコンサルタントでもある。物流をマネジメントする私たちが扱っているのは、荷物そのものではなく、情報です。

物流の基本は、物を移動させることなので、運輸と混同されがちですが、むしろ「情報処理」だと、私は思っています。出発地の荷物の量、トラックの台数、到着地の保管のキャパシティなどの情報から、最も効率的な運送方法を考えるわけですから。会社を起こす前、トラックのドライバーとして荷物を運んでいた時から、配送ロスの減らし方を考えていました。

―― トラックドライバーからの起業とのことですが、その経緯をうかがえますか?

物流会社を立ち上げたのは29歳のとき。ここで、少し物流の仕組みについてお話します。物流の「運ぶ」に注目すると、3つの段階に分けられます。まず、製造拠点から物流拠点まで商品を運ぶ1次物流。当社では、関東の工場から北海道まで運ぶことを指します。次に、物流拠点から卸業者の物流拠点まで商品を移動する2次物流。北海道にまとめて上陸した商品が、道内各地に運ばれていきます。そして、卸売業者と小売店をつなぐ3次物流。ここでようやく、商品はスーパーやコンビニエンスストアの店頭に並ぶわけです。私がトラックドライバーとして働いていた運送会社は、2次物流を担当していました。

この時、同じ卸業者に届けるアイスクリームが、メーカーごとにバラバラに物流拠点へ運ばれてくるため、どの商品がいつ届くのかわからないという状況でした。温度管理ができていなくて届いた冷凍商品が溶けていたということもあります。それは、ドライバーにとっても、届け先にとって望ましくない。このような業界内の課題を解消するために、1998年、アイスクリームの共同配送事業を柱とする「北海道物流開発」を設立しました。

「届けてほしい」の思いに応えたら、アジアとの貿易を始めることに

―― 業界内の課題を解消するためにどのような改革をしたのでしょうか?

アイスクリームに「鮮度」という概念を持ち込んだのは、私たちです。大手メーカーの研修会に招かれた時、工場でできたてのアイスクリームを食べる機会がありました。それが驚くほど美味しくて!運び方で、お客様の商品に付加価値を付けられると思いました。

それで、関東のアイスクリーム工場から北海道各地の小売店まで、製造から10日以内に届けると決めて、チャレンジしたのです。もともと2次物流の会社でしたが、1次から3次までの仕組みを考えたんですね。これが成功。売上げが伸び、全国展開することになりました。

仕事は、極めようとすればするほど、全体像を把握する必要があります。私は2次だけでなく、常に1次と3次を念頭に置いていたので、できたことかもしれません。気づけば、できることが増えていて、2次物流の会社から「物流のマネジメント企画管理会社」になっていたというわけです。

―― 仕事の場も北海道からアジアへと広がっていますね。海外事業について教えてください。

初めて海外へ荷物を届けたのは2013年のことです。この年、新千歳空港とシンガポール・チャンギ国際空港を結ぶ、シンガポール航空の直行便が就航しました。ただし、12月から1月までの季節限定。それならば、この時期だけにしかない荷物を運ぼうと決めました。実際に運んだのは、クリスマスケーキとおせち料理。これは現地の日本人に喜ばれましたね。

これがきっかけで、シンガポールに現地法人として輸入と輸出の会社をそれぞれ立ち上げて事業を行うことになりました。荷物を運ぶ先がたまたま海外だったから、結果的に貿易を始めることになったのです。


シンガポール・チャンギ空港

国内の市場が縮小していると感じていたこともあり、これはチャンスであると捉えました。北海道の食材は、アジア諸国でも注目されていて、シンガポールでも美味しいと評判がいい。2016年10月には、シンガポール航空の経営するLCC・スクートの直行便が就航しましたし、これからさらに輸送量を増やしたいと考えています。

そのために取り組んでいるのが、「国際エアカーゴ構想」。24時間オープンで、道内各地の生産物を集荷してアジアへと出荷する、国際プラットホームを新千歳空港に築くことを目指しています。

【国際エアカーゴ構想とは】北海道の戦略プロジェクトの一つとして、新千歳空港を国際航空貨物の拠点として位置づけ24時間運用し、日本の北の国際物流拠点をめざす構想。今回の定期便就航と同じタイミングで、新千歳空港の生鮮食品を保管する冷蔵・冷凍設備が2倍に拡張、鮮度保持機能の高い特殊製氷装置も導入された。北海道庁は、道産食品輸出額1000億円を目指す「食の輸出拡大戦略」を策定している。

必要なのは、物流をデザインする力。広く深く現場を見て、効果的な方法を考える

―― 物流の仕事に必要なスキルはいろいろあると思いますが、最も重要だと考えているものは何でしょうか。また、経営者に欠かせないスキルを一つ挙げていただけますか?

製造から消費の現場まで、全体を俯瞰して、最もふさわしい運び方を考える力は重要です。効率を考えながらトラックを手配していくのは、プログラミングと似ていると思います。A地点からB地点まで荷物を運ぶ道筋をどうやってデザインするのか。オペレーションが決め手ですね。

それから、視野の広さも必要だと思います。それは好奇心に育てられるものでしょうね。目線の高さも意識してほしい。「今日と違う、明日への向かい方」と社員たちには言っていますが、毎日少しずつ歩みを続けていれば、1年後にはずいぶん遠くまで行けます。その時、下を向いていては歩けませんから、目線は少し上がいいと思います。


私は平社員からいきなり経営者になってしまったので、責任を全うするためにがむしゃらにがんばってきました。その経験から、「立場は人を育てる」と考えていて、そこに責任感は必要だと思います。いろいろなリーダー像があって、必要な素質はそれぞれ違うと思いますが、目配り気配りができる飲み会の幹事のような人は、リーダーに向いているのではないでしょうか。

荷物が届くことの価値を知り、それを当たり前にすることに尽力する

―― この仕事のどこにやりがいを感じていらっしゃいますか?

荷物を運ぶことで、人に喜ばれるという経験をすると、止められないです。夏場にアイスクリームを届けに行って、「よく来てくれたね」と言われると、やはり嬉しいもの。

忘れられない思い出があります。1993年に発生した北海道南西沖地震。道路が寸断されてしまい、いつもの配送ルートが通行止めでした。通常だと5時間の道のりですが、迂回して9時間くらいかけてようやくお客様のところに着きました。「札幌から届けてくれたのは君だけだ」と喜ばれことは今でもよく覚えています。その時に、物が届くことの価値がわかった。

実は当たり前と言えるほど物が届くことは確かなものではなく、だからこそ、当たり前をつくっていきたいと強く思ったのです。

物流のシステムを合理化することで、地元・北海道の価値を世界へ伝えたい

―― 業界全体を俯瞰しながら仕事をされてきた斉藤さん。その目は、日本を超えてアジアを見据えていますが、これからのビジョンを教えてください。

海外事業でいうと、シンガポールをハブにさらにアジア諸国との関係を深めていきたいと考えています。先頃、あらたにタイとの貿易が具体化しました。北海道の食材をアジアにどんどん運びたいですね。

一方で、北海道の物流をよりよくする提言を通じて、北海道の活性化にも貢献することが、自分の目標です。北海道の生産者は、大企業とは違い、自前の大規模な物流ネットワークを持っていません。少量の生産物を出荷しようとすると運送費が高額なってしまう。では、少量ずつをまとめて運べばどうだろう。複数で相乗りできるバスのような「小口混載の集荷システム」があればいいのではないか。北海道の現状に合う、合理的なシステムを構築するのが使命だと考え、地道に取り組んでいます。

それを支えてくれる人材も必要です。だから、いま物流を専攻する大学生や食を学ぶ高校生たちの研究発表会にも積極的に参加しています。「食」に関わる人は、人を喜ばせることに喜びを感じられる人であってほしい。そういう人を育てていくことも、私たちの使命ですから。


約20年にわたり、「物流」を通して「食」と向き合ってきた斉藤さん。どちらの業界も元気にしようと走り続けてきました。その原動力は、仕事への誇りと責任感。いままでの取り組みが、これからどのような実りをみせるのか、目が離せません。