異国の消費者に幸せを届ける、現地・現物主義の海外マネジメント
日本を飛び出し、アジア地域で存在感を高めているイオングループ。その最前線で指揮を取っているひとりがイオンベトナム ハノイ代表の石川忠彦さんです。2015年10月にオープンした「イオンロンビエン店」は休日ともなれば数万人が訪れる、ベトナム北部最大級の総合スーパーの店舗。その成功の裏にはどんな思い、計画があったのか。異国の地で食の小売業を展開するために欠かせないキーワードを伺いました。
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イオンベトナム ハノイ代表
石川 忠彦(いしかわ ただひこ)
立命館大学を卒業後、ジャスコ株式会社(現イオン)に入社。店舗スタッフ・商品部を経験し、会社派遣にて大学院に入学。卒業後は国際事業を希望し、タイ王国バンコク市、中国北京市、再度バンコク市に駐在。2013年より新店舗立ち上げのためベトナムのハノイ市に赴任。現在イオンの総合スーパー事業は、マレーシア、タイ、香港、中国、ベトナム、カンボジア、インドネシア、ミャンマーに展開。
ベトナムをはじめ、アジア地域で成長を狙うイオングループ
―― 2015年10月にオープンした「イオンロンビエン店」。ベトナム、ハノイ地域では一号店となりますが、どのような流れの中でプロジェクトが立ち上がったのでしょうか?
イオングループが海外事業をはじめたのは32年前。これまでマレーシアやタイ、中国、香港などに出店してきました。世界情勢がめまぐるしく変化する中で、近年特に力を入れているのがベトナムです。ベトナムは小売業の自由化が始まり、経済成長が大いに見込まれます。さらにイオングループが得意とする中間所得者、ニューファミリー層の増加や、郊外出店の活発化も、進出の後押しとなっています。
ベトナムでは2014年1月にタンフーセラドン店、同年11月にビンズオンキャナリー店と、最大都市であるホーチミン地域に2店舗を出店、翌年の2015年10月に首都ハノイ地域ではじめてロンビエン店をオープンさせました。現在はホーチミン地域にもう1店舗増えて、ベトナムで4店となっています。
―― 計画が決まって実際にオープンするまでにはどれくらいの期間があるのでしょうか?
おおよそ2年です。用地決定から建物が完成するまでに約18か月。それと並行しながら商品の仕入れを行う商品部を立ち上げて、スタッフの教育とともに取引先の開拓などを進めていきます。また、オープン9か月前には本格的に営業スタッフ採用を開始し、企業の考え方や接客マナーなどを浸透させていきました。
私自身が海外事業に携わるようになって10年ほど経つのですが、責任者として一から店舗を立ち上げていくのは初めての経験。お店づくりから従業員の採用、利益計算や品揃えの組み立て方などの教育、すべて私ひとりからのスタートだったので、これまでとは思い入れがまったく違いましたね。
商品ラインアップは、異国の食文化を理解するところから
―― 総合スーパーである「イオンロンビエン店」の核となる食品の商品ラインアップは、どのように選定されていったのでしょうか?
これは食に限ったことではありませんが、まず頭に入れて置かなければいけないのが、その地域にはその地域でこれまで続いてきた暮らしや営みがあるということ。「日本で売れているものをそのまま紹介すれば成功する」という考えでは失敗してしまいます。商品の選定に関しては、私たちは「これまで現地で使われてきたものをまず用意する」という考え方。そのため、その地域でどんなものが消費されているかを徹底的に調べます。そのひとつが家庭訪問による調査。ロンビエン店のオープンにあたっては約100家庭にご協力いただき、季節を変えて2回(夏と冬)お邪魔しました。
訪問の際には玄関先から冷蔵庫の中まで、あらゆるものをチェックします。食に関して言えば、どんなものがストックされていて、どんな調味料が並び、どんなお酒を飲み、どんな道具で調理しているのか。その地域の家庭にあるものが、そのままロンビエン店の品揃えになっている、と考えていただければいいのではないでしょうか。私たちがするべきことはその地域の人たちの暮らしを支えることであって、日本のイオンそのものを輸入することではありませんからね。
―― 現地の文化、慣習などはあらかじめ調査を行うのでしょうか?
もちろんある程度の下調べは行いますが、実際には時代や地域によって下調べの内容とまったく違っていたということは往々にしてあります。たとえば同じベトナムであっても、ここハノイとホーチミンでは売れるものが異なります。また、ホーチミンから家庭訪問調査の応援に来てくれたスタッフは、玄関に置いてあるものから違うと驚いていました。それらは実際に現地を見てみないとわからないこと。徹底した現地・現物主義で常に頭の中をアップデートできる臨機応変さが、海外で事業をする上で大切だと思います。
現地を大切にしながら、日本流の提案も
―― 現地の消費習慣を大切にする一方で、イオンから提案、発信していることはありますか?
商品単品では、抹茶味のソフトクリームが人気で、今でも毎月4万個以上を売り上げる名物スイーツになりました。他にも、こちらでは生魚を食べる習慣がなかったのですが、日本食文化への興味の高まりも背景に、お寿司やお刺身をたくさんお買い求めいただけるようになったことも嬉しい驚きです。
イオンモール全体の取り組みとしては、旧正月の店舗営業も話題となりました。ベトナムでは旧正月は自宅で過ごし、すべての店舗がお休みというのが当たり前なのです。しかし、そんな日であっても買い物をしたいという方はきっといるだろうという予想のもと、営業を実施。年間を通して見れば最も売上が少ない日となってしまうのですが、他店と差別化し、「毎日開店しているイオン」というイメージの定着を図るために、今後もこの取り組みは続けていこうと思います。
また、食材の調理方法を実演し、毎日の晩御飯のメニュー提案をする「クッキングステーション」や、これまでの文化でなかったクリスマスイベントの開催などもイオンならではとして注目を集めています。
―― その他、イオンブランドを高めるためにどのようなことに取り組んでいらっしゃるのでしょう?
やはり、一番は食の安全を守るということでしょうか。生鮮食品の温度、製造日、衛生状況をきちんと管理することは、ここベトナムでは非常に難しいことです。それを実現できるというのは、イオンの大きな強み。また、農作物自体でも、産地や農家と協力しながら安全に栽培されたものが店頭に並ぶように努力しています。食品の汚染問題はこちらでも深刻化しているので、イオンへの信頼がより高まってきております。
日本代表として市場を作り上げていく喜びを
―― そもそも石川さんは最初から海外事業に携わるお仕事を希望されていたのでしょうか?
いえ、実はそのようなことは考えたことはなく、入社以来、全国の店舗で勤務したり、商品部という商品を購入するセクションに所属したりしていました。転機がやってきたのは35歳の頃。「自分はこのままでいいのだろうか」と考えはじめていた時期に、社内留学制度を利用して大学院大学である国際大学に入学できるチャンスを得ました。この大学院は新潟県にあるのですが、すべての授業が英語、外国籍の学生が8割という環境でした。
当時は、海外で働く自分というものがまったく想像できませんでした。そこではじめて海外事業に挑戦してみたいという気持ちが大きくなったんですね。「想像できないからこそ体験しよう」「知らない自分や世界と出会ってみよう」と考えるようになりました。
―― 石川さんのように海外で事業をしていくために、求められる力はどのようなものでしょう?
まずは自分が日本人の代表の一人として海外に出ていくという認識を持つことです。日本という国のことを勉強し、説明でき、自分のアイデンティティをしっかり持っていることが必要です。それと同時に自分がその国に住まわせてもらっているという謙虚さを持つことも大切。先ほどと重なりますが、日本をそのまま持って行ってもダメ。相手との違いを認めた上でその地域に貢献する、現地の人たちと一緒にやり遂げていく。そうした心構えがとても重要だと思いますね。
もちろん苦労や困難はあって当たり前。それよりも海外で事業をはじめるのには、大きなやりがいがあります。マニュアルも何もない中で、現地のスタッフと一緒に一から作り上げていく。それを楽しめる力を持つことも、海外で成功するための大きな鍵になるのではないでしょうか。
―― 最後に、石川さんのこれからの夢を教えてください。
みんな必ず何かを食べて生きているわけで、食というのはとても大切な存在です。だからこそ安全なものを並べること、安心して口に運べることにはこれからも徹底的にこだわっていきたいと思っています。また、業務の上では店舗運営とサービスの質でアジアNo.1の小売業になることです。
アジアシフトを成長戦略に掲げるイオングループにおいて、その最前線で市場を切り拓く石川さん。ベトナム市場で順調に店舗を拡大していく根底にあったのは、「日本代表として、その地域の人たちの当たり前の幸せに貢献する」という徹底した現地・現物主義でした。イオンベトナムは今後2020年までベトナム全土で20店舗まで拡大する予定。その成功が今からとても楽しみになりました。
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