2018.11.06

Column

インドネシアのハラール認証最新事情(後編)

インドネシアのハラール認証最新事情(後編)では、ハラールロゴつき小売製品の流通方法について考えます。

profile

  • 立命館大学食マネジメント学部 教授

    阿良田 麻里子(あらた まりこ)

    専門はインドネシアの食文化。文化人類学と言語学をベースに、日常の食生活や人々の語りから食文化を読み解いています。好きな食べ物は、インドネシアのテンペと日本の豆腐。

MUIのロゴ入り商品として小売するための戦略

現行、インドネシア国内で正式に流通が許されているハラールロゴは、インドネシア・ウラマー評議会(MUI)のものだけです。これは2019年にBPJPHのロゴに変更される予定とされていますが、MUIの認証を取得していれば移行期間になんらかの措置があることは間違いありません。MUIはインドネシア国内だけでなく、国外の工場にも認証を出しています。一方、MUIが承認した他国の認証機関すなわち日本ムスリム協会やMPJAなどから認証を取得した品は、MUIの認証品を製造する際のマテリアルとして認められるだけで、MUIのロゴをつけることもできず、インドネシア国内での小売販売も認められていません。

インドネシアでMUIのロゴ入りの小売商品を販売する日本企業の主な戦略は、次のようなものです。まず、日本で企業秘密の根幹となる部分を製造し、MUIかMUI承認ずみの機関から認証を取得して、中間製品として輸出します。そして、現地の自社工場あるいは委託製造先で、この中間製品と現地調達の材料を使って最終製品を作ります。

あまり知られていませんが、これ以外にも複数の方法があります。一つ目は、小売り品を作る日本の工場で直接MUIの認証を取得し、輸入業者と協力して、食品医薬品監督庁(BPOM)で輸入販売許可の手続きの際についでにMUIのロゴの使用許可をとる方法です。こうすれば、日本から直接MUIのロゴ入り商品を輸出することが可能になります。二つ目は、日本で作った製品をバルクで輸出し、現地工場で小分け包装をして最終製品とすることです。ただし、インドネシアで小分けやリパッキングのみ行う場合、日本での認証はMUIのものでなければなりません。一方、現地工場で加工を加える場合は、日本から輸出したものはマテリアルとして扱われるので、承認ずみ認証団体の認証でよいはずです。ベトナムやタイやシンガポールなど、ASEAN域内の第三国の工場を利用することも考えられます。

前編で述べたように、新法のもとではインドネシア国内における権威や権益は分散化されます。しかし、今のところ、海外工場の監査を満足に行える技術や人材を持っているのはLPPOM MUIだけですから、海外企業については、新法施行後も当分の間はMUIが築いてきた体制が続くでしょう。LPPOMはむしろ、海外での活躍を通して、その影響力の維持・高揚を目指そうとしているようにも見えます。すでに2011年からは上海に支局をおいて盛んに中国製品の認証を行っていますし、台湾でも2017年に支局を置いたことが発表されました。MUIが今後日本でどのような動きを見せるのかが注目されます。

そんななか、9月27日~28日にかけて東京新宿で「インドネシアのハラール研修」が矢野経済研究所によって開催されました。LPPOM MUI公認のもとに日本で開催された初めての研修で、IHATECの講師が招かれ、食品・飲料・添加物・保存料・化粧品・トイレタリー等さまざまな分野の企業20社から30人が参加しました。MUIの認証を新規申請・更新する際には、通常インドネシアで開催される研修への参加が義務付けられていますが、今回の研修はこれと同等のものとして認められていて、日本語の翻訳・通訳つきというもので、日本企業のハラール認証取得障壁を大きく下げるものと言えるでしょう。

認証を急ぐ必要のない分野も

なお、新法施行後はインドネシア市場への飲食品・トイレタリー等の輸出にはハラール認証取得の重要性は確かに増します。しかし、新法を字義通りに解釈してはいけません。2019年までにあらゆるものが認証を取得することは不可能ですし、そんなことは求められてもいません。新法で想定されているハラール小売り商品とは、まずは、直接口に入れたり人体に触れたりするものでかつハラーム品による汚染のリスクが高いもののことを指しています。認証制度そのものも、飲食品やサプリメントや化粧品やトイレタリー、動物の皮革を使った靴や服などが優先され、徐々に整えられていく予定です。

プラスチックや植物性の材料で作った道具や布、電気製品など、特にこれまでハラール性が問題にされてこなかった品物については、たとえ飲食品の製造や保管に使われる道具であっても、少なくとも当面は認証取得の有無は不問とされます。新法にいち早くこたえようと、冷蔵庫にまでハラール認証をとる日本企業がでてきましたが、これは勇み足というものでしょう。豚毛のブラシででもない限り、器具や棚や冷蔵庫などの原材料まで問題にされることは、まずありません。監査にかける時間や人材には限りがあるため、認証団体のほうにも、なんにでも認証を出すのはやめようという機運が生まれつつあるようです。

もちろん将来を見据えれば、これを機にハラール認証規格について学び、原材料や製造工程を見直して、豚や犬に由来するものがないか確認し除去する努力をするのもリスク管理として有効です。しかし、消費者も認証団体も危険性を感じていないものにまで、企業が先走って認証を取得するようになれば、逆に、そんな分野にまでハラームな製品があるのかとあらぬ疑いをもたれ、認証制度の拡大化や厳密化にもつながりかねません。認証取得がまだ一般的でない分野の関係者には、こういったことも考えて、慎重に行動していただきたいと思います。ハラール認証の世界はあいまいな部分も多く、こまごまとした質問をしたり、先回りをして対策を立てたりしたくなる気持ちはよくわかりますが、それによって逆に自分の首を絞めるような細かい規則が生まれてしまうこともあります。やるべきこととやらなくてよいことの間をうまく見計らって、バランス感覚を保ちながら対処していくことが望まれます。