2021.08.30

Column

問われる食の現在と未来 ー 大切なことは何か

途上国の飢餓や貧困問題はよく知られています。ところが、今、先進国といわれる国々の食料の供給や食生活も大きな問題をかかえています。世界では、多くの人々が住む都市のフードシステムの状態に目がむけられ、再検討が始まっています。

profile

  • 立命館大学食マネジメント学部 教授

    新山 陽子(にいやま ようこ)

    専門は、フードシステム論、食品安全学。フードシステム分析の枠組みを提示して、国際比較を行う。農業経営の存続、消費者の購買行動、食品安全のためのリスクアナリシス、リスクコミュニケーションモデルの提示など直面する社会課題に取り組んできた。好きな食べ物は郷里のお雑煮、煮染め、巻き寿司。

私たちの食生活は本当に豊かか?

スーパーマーケットやコンビニに行けば、いつでもたくさんの食品がならんでいます。ファストフード店ではハンバーガーや牛丼などが手早くだされます。貧困とは縁遠いようですが、本当に豊かな食生活ができているでしょうか?

新製品が競われていますが、それらはじっくり味わって食べたいものでしょうか。本当に多様性があるでしょうか。地域性のあるもの、手作りのもの、それを守り続けてきた地域の事業者は大切にされているでしょうか。

私たちは食品を大切にしているでしょうか? 食品を大切にする原点は、じっくり味わって食べることはないでしょうか。それは食品をむやみに捨てないことにもつながるのではないでしょうか。

農業は崖っぷち、農産物価格や食品価格は安ければ良いか?

日本では、農業で仕事をする人(基幹農業従事者)が、5年毎に30万人以上減り続けています。2020年には136万人になり、2030年には96万人に減少しそうです。すでに食料自給率がカロリー換算で4割ありませんが、それも維持できなくなるかも知れません。輸入すればいいではないかと思われるかも知れませんが、日本の経済力全体が下がってきているので、買い負けるようになっています。気候条件の悪化があると、輸出国も自国を第一に考えるので、輸出は減らされます。

では、なぜ農業者が減っているのか。農産物価格が安すぎて、労働に見合った収益が得られないので、若い人が農業を敬遠することが最大の理由だと考えられます。

食品価格が安いことはいいことだけではありません。農産物を安く仕入れることにつながり、農業が衰退し、フードシステムが維持できなくなることに、目を向けねばならないのではないでしょうか。大量生産の食品企業、安売りの外食店や小売店で働く人たちの給料もとても安いはずです。貧しい生活を循環させることになってはいないでしょうか。日本の賃金水準は国際的にとても低くなっています。賃金を引き上げ、もう少しお金を出して食品を買えるようにし、質の良い食品をつくり、大切に食べ、農業を維持できるように、経済の循環を変えることが必要ではないでしょうか。

低賃金、経済格差の拡大はさらに深刻な問題を生み出しています。買えるものが限られている、買えず、食べることができない世帯、子供たちが増えています。日本の経済格差はアメリカ並みとのデータがあります。日本では、ほとんど光があてられないので、社会的に広く知られていません。しかし、都市の食生活の大きな問題です。

すべての人々に良質な食料がゆきわたる社会に、都市からフードシステムを見直す

2015年にミラノで、都市食料政策協定が結ばれました。この協定では、それぞれの都市で、すべての人々に、安全で、良質で、多様な、十分な量の食料を供給できるようにすることを目指しています。また、食料の生産、経済活動、消費を持続的なものにし、かつ、地域の経済や社会・文化・教育へ寄与することを重視しています。

フランスでは、2014年農業法に、地域圏食料プロジェクトを進めることが盛り込まれました。自治体が主導し、フードチェーンの各事業者が集まり、自ら問題を診断し、議論して、解決のための行動を決めます。この自発的な動きが全国に広がっています。

日本でもこのような取り組みが必要ではないでしょうか。ところが、新しいことへ自発的に動く、部局を超えて動く、しっかり議論し自ら方向を見つけ出すという、柔軟さがない状態に陥っています。それを超え、前に進めるようにすることが、私たちの社会に求められているのではないでしょうか。