

科学で料理のおいしさを読み解く
こんがり焼けたトーストはなぜ香ばしくおいしいの? 肉は熟成させるとなぜ柔らかくなるの? 時間がたった野菜はなぜ黄色く変色するの? 最近の冷凍食品はなぜおいしくなったの? 袋入りのポテトチップスはなぜいつもパリパリしているの? 空腹になるとなぜ食事がおいしくなる? このような食に関する「なぜ」に、これまで多くの科学者が挑み、答えを見つけ出してきました。食に関して科学的に明らかになってきたことを網羅的にまとめた一冊を紹介します。
おいしさは科学的に説明可能か?
『「おいしさ」の科学 素材の秘密・味わいを生み出す技術』著・佐藤成美(講談社、2018年)
この本では、サイエンスライターである著者が、科学という視点から、食品や料理に関する基礎的な知識から最新の技術情報までわかりやすく解説しています。具体的には、食材に含まれる成分、調理による食材の化学変化、香料や新素材などの添加物、食品の包装技術、脳や味覚細胞の仕組みなどが専門家以外の人にもわかるよう丁寧に書かれています。
世の中にはたくさんの種類の料理があり、日々新たな料理が生み出されていますが、これまで人類が開発してきた調理法の多くは科学的な説明が可能です。例えば、調理に伴う食材の変化は、タンパク質の変性や水分活性の変化など化学的性質や物理学的性質の変化によって説明できます。また、科学技術の進歩により、これまでわからなかった食材の特性や人間の味覚システムなどが明らかになってきています。食品を食べたときの食感は味を左右する重要な要素ですが、食品のかたさや咀嚼性を分析する技術が開発され、食感の変化には素材の組織構造や水分の移動などが関わっていることがわかってきました。また、新たに開発された味覚センサーを使えば味を数値化することが可能となり、指標をもとに食品の開発コストや時間を削減することが可能になるそうです。さらには、容器包装に関する技術も年々進化してきていますので、我々はこれまで以上に多様な食品を手にできるようになってきました。このように、食に関する科学の進展は新たな食の開発につながり、おいしさだけではなく、栄養面からも私たちの健康に大きく貢献しています。
この本の著者は、おいしさは生命維持のために備わった快感であり、本能的に人体に必要なものをおいしいと感じると説明しています。一方で、おいしさのメカニズムはまだまだわからないことが多く、おいしさを客観的に評価することは難しいとも述べています。食は我々にとって不可欠なもので、毎日、食と向き合っているともいえます。このような毎日の食について科学的に眺めてみる読み物として格好の一冊だと思います。これまで、なにげなく考えていた料理が少し違った視点から見えてくるかもしれません。
食マネジメント学部 教授 筒井 俊之
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