インドネシアのハラール認証最新事情(前編)
ムスリム(イスラーム教徒)には、豚や酒など禁じられた飲食物があることがよく知られています。イスラーム法に則って許されている物事をハラール、禁じられている物事をハラームと言います。グローバル化する現代社会では、飲食のハラール対応は必須の課題といえるでしょう。製品のハラール性を専門的に確保するハラール認証(以下「認証」と呼びます)制度も発展しています。前編では、一般的なハラール対応と認証の違いについて考え、インドネシアの新しい「ハラール製品保証法」と新体制について紹介します。
profile
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立命館大学食マネジメント学部 教授
阿良田 麻里子(あらた まりこ)
専門はインドネシアの食文化。文化人類学と言語学をベースに、日常の食生活や人々の語りから食文化を読み解いています。好きな食べ物は、インドネシアのテンペと日本の豆腐。
ハラールビジネスの現状とハラール認証
訪日外国人向けの中食・外食産業や土産品・宿泊施設等インバウンドビジネスにおいては、認証取得よりも、顧客の意見をていねいに聞き取ってニーズに基づいた商品開発と情報開示でムスリム対応を始めることをおすすめしています。一方、海外進出や輸出の場合は国や地域によって事情が異なりますが、認証取得の重要性が増しつつあります。マレーシアやインドネシアのように、全国的なビジネスとして成功するには、認証を取得することがほとんど必須の大前提となっている国もあります。
日本ではハラール認証団体が林立していて、認証の内容は千差万別です。一方、東南アジアの主要国の認証は、HACCPやISO22000のような汚染や混入を防ぐ製造工程の管理システムの上にたち、安全・衛生に加えてハラール性の観点を追加したようなものです。このようなハラール認証はもともと食品工業向けのもので、そもそもの宗教的なハラールという概念とくらべると、非常に狭いものです。
新法施行によるインドネシアの認証体制の変更点
インドネシアは、世界第四位の総人口約2億5千万人のうち、ムスリムが9割弱を占めていて、世界の認証団体に大きな影響を与えているハラール認証先進国の一つです。そのインドネシアで、2014年に「ハラール製品保証法」が制定され、2019年に施行されることになりました。これまで認証取得は任意のものでしたが、新法は、国内で流通するすべてのハラールな小売り製品に対し、認証取得を義務付けています。ただしよく誤解されますが、非ハラール品の流通が禁じられるわけではなく、非ハラール品は非ハラール表示をすることで流通が可能となります。
インドネシアでは、政府の肝いりで作られたNPO「インドネシア・ウラマー評議会(MUI)」が、「食品医薬品化粧品検査機関(LPPOM)」を1989年末に設立して以来、もっぱら国内のハラール認証を担ってきました。MUIのハラール認証規格HAS23000シリーズは、製造と流通の全段階において、重度の穢れをもつとされる豚や犬に由来する物質との接触を厳しく禁じ、混入や交差汚染を防ぐことを要求しています。調達前の原料の状態から、出荷後の倉庫・運送・販売すべてに責任を持つことを考えると、企業の責務はあまりにも重いものになってしまいます。そのため、新法施行を控えて、インドネシアへの輸出企業やその関連企業は戦々恐々としている現状です。
新法施行にあたっては、新しく国家規格SNI99001:2016、SNI99002:2016が定められ、ハラール認証に関わる権威や権益は分散化されます。従来MUIが握っていた証明書の発行権限は、宗教省直轄機関「ハラール製品保証法実施機関(BPJPH)」に移されることになっています。監査機関としてのLPPOMの位置づけも、国内に並び立つ多数の「ハラール検査機関(LPH)」の一つとなり、企業の監査は各LPHがそれぞれに実施することになります。現在全国各地の大学がLPH設立に向けて準備を進めていて、2018年初頭の時点ですでに40以上の機関が候補となっていると報じられています。
ただし、LPHの監査官の教育は、LPPOM の監査官を講師として新しく作られたMUIの研修・教育機関IHATECが担っています。また各LPHの監査結果に基づいてハラール性を最終的に判断する役割もMUIが担います。インドネシア国内の中小企業の監査は、新体制のなかでどちらかというと少し緩くなる傾向があるかもしれませんが、海外工場や国際企業に関しては、新法施行後にハラール規格や審査基準が突然大幅に変わるということはないでしょう。
後編では、インドネシア国内で流通可能なハラールロゴのついた小売商品を作る方法を考えます。
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