

心の進化を読み解く
最近、ダブルチーズバーガーに続きトリプルチーズバーガー、さらには倍バーガーとボリュームたっぷりの商品を推すハンバーガーチェーンのCMが目を惹きます。大人を意識したキャスト起用で、幅広いターゲットに刺さるこの戦略は成功しているようです。その一方で、多くの大人の悲願であるいわゆるダイエットはなかなか成功しないのです。さもありなん、という風に鼻で笑ってスルーされそうな現象ですが、人間はなぜそのように進化したのでしょうか?
なんだかんだ言って行動は本能次第?だって人間だもの
『人間の本能 心にひそむ進化の過去』著・ロバート・ウィンストン、訳・ 鈴木光太郎(新曜社、2008年)
食品でも化粧品でも車でも、買うのを決めるのは消費者です。そこで現在の製品開発やマーケティング戦略は非条理な消費者行動にまで配慮するに至っています。さらに脳科学の発展を背景に、ニューロ(神経)マーケティングという言葉も生まれました。その手口は“人間の消費行動の秘密は脳の特性にあることがわかった、それを利用しない手はないよ”、というものです。しかし、脳の仕組みが云々と言われても、実は納得いかないことも多いでしょう。ときとして人間の行動が非合理的であるとしても、どうしてそうなったのか、という理由を知りたいことも、巨大な大脳を手に入れた我々の本能的欲求でしょう。
本書は、その欲求を楽しく満たしてくれる良書です。ヒトをヒトたらしめる数々の身体的 (二足歩行・大きな脳など)・心理的 (食行動・性行動・暴力・利他行動など) 特徴を浮き彫りにして、その仕組みを解剖学や生物学、脳のイメージングや心理学実験の知見から簡潔に解説していきます。さらに、そのように進化した理由を500万年前にチンパンジーから分岐した人類が過ごした300万年間のサバンナでの生活への適応に帰するダーウィンの自然選択説を軸にさばいていきます。古生物学などを引き合いに出しながら我々の先祖の生活をいきいきと描写しており、ドキュメンタリー番組さながらです。それもそのはず、著者のロバート・ウィンストンはロンドンのインペリアル・カレッジの教授 (専門は生殖医療) であるとともに、テレビの科学番組のプレゼンターとしても活躍している方です。バラエティに富むトピックは、BBCテレビの企画のために集められたもので、エンターテインメント性もたっぷりです。科学的エヴィデンスの記述と解釈は多少の突っ込みどころはありますが、許容できる程度には誠実だと思います。
訳者はあとがきで本書を“グランドツアー”と形容しています。人間の心身の進化のメカニズムを焦点として、考古学・人類学・進化心理学・乳幼児心理学・脳科学・生殖医学など見ごたえのあるスケジュールが目白押しです。案内はもちろんウィンストン卿。博識で気が利いたジョークもとばせる優れたガイドとともに、リーズナブルなツアーを楽しんでいただきたいです。
食マネジメント学部 教授 和田 有史
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