エンタテインメント企業が切り拓いた食の新たな可能性
音楽・アニメーション作品等の企画制作事業を中心に、アーティストやタレント・クリエイターの発掘・育成、VRやAIなどを駆使したデジタルコンテンツ事業、エキシビション事業など、さまざまなエンタテインメントビジネスを手掛けるソニーミュージックグループ。グループ本社であるソニー・ミュージックエンタテインメントは2017年、「食」をテーマに最先端の映像技術や特殊効果を駆使し「見る」「聴く」「触れる」などの五感を使った体験型デジタルアートの企画「食神さまの不思議なレストラン」展を東京・茅場町で開催しました。ソニー・ミュージックエンタテインメントが、新たに「食」という分野を題材にした狙いとは? 企画の責任者であるソニー・ミュージックエンタテインメントの森三千男さんに聞きました。
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株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
森 三千男(もり みちお)
大学在学中はバンド活動に熱中。卒業後は鉄道会社に就職し、駅勤務ののち財務部に長く在籍。新しいことにチャレンジしたいという思いを抱える中で、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントの求人を見つけ思い切って転職。財務経験を買われ経営企画やマーケティングに携わるほか、多くの新規事業立ち上げにも関わり、「食神さまの不思議なレストラン」展では責任者を務めた。
“音楽のソニーミュージック”が食のエキシビションを開催
―― ソニーミュージックグループは、多角的にビジネスの幅を広げていらっしゃいます。いま特にどのような事業に力を入れていらっしゃいますか?
当グループのメイン事業は音楽やアニメーション等映像の企画・制作・発信です。それらを柱としながら、エンタテインメント界での事業拡大を図るべく、新しいコンテンツの企画、開発を行ってきました。近年、力を入れているのが、イベントやミュージアムを運営するエキシビションビジネスやマネジメント事業です。
例えば、2016年からはプロバスケットボール・B.LEAGUEのエンタテインメントパートナーとして契約を結び、バスケの試合を盛り上げる演出を担当しています。さらに、2017年にはデヴィッド・ボウイの大回顧展「DAVID BOWIE is」を成功に収めるなど、音楽イベントに限らずさまざまなコンテンツの事業を手掛けてきました。
実は、このような多角的なビジネス展開は、音楽業界のさまざまな会社で行われていることです。いかに面白いコンテンツを世の中に提案できるか、いかに幅広くエンタテインメントに関わるかが今後の事業展開の鍵となっています。
―― 「食神さまの不思議なレストラン」展は、どのような経緯で始められたのでしょうか?
私たちは、新たなエキシビションを企画するために、日々さまざまなテーマを探しています。その一環で着目したのが「食」でした。その中でも、日本人が知っているようで意外と知らない和食の魅力を見直すきっかけとなるような新たな取り組みをしてみたいとなったのです。
ちなみに、いまや音楽フェスティバルやライブを開催するうえで、「食」はなくてはならない要素です。音楽フェスでは、飲食コーナーの充実が集客や来場者の満足度を高める鍵となっていますし、我々も先述の「DAVID BOWIE is」でコラボカフェをオープンしました。
和食をテーマにすると決めたら、次は表現方法。私たちの腕の見せ所です。和食の魅力を最大限に引き出し、来場者にこれまでにない驚きと感動をもたらしたいと考え、パートナーとして選んだのが、当グループが日本でのエージェントを担う、カナダ発の世界的デジタルアート集団MOMENT FACTORYです。
驚きがいっぱい!プロとタッグを組み表現した和食の世界
―― MOMENT FACTORYと創り上げた和食の表現とは、どういったものだったのでしょうか?
MOMENT FACTORYはこれまで、大物アーティストのライブ演出や、建築物や森に映像を投影するイベントを得意としてきました。彼らにとっても、食をテーマとしたエキシビションを手掛けるのは初めてのこと。和食をテーマに自由に発想してくださいと依頼したところ、彼らからは単に和食を食事として紹介するのではなく、日本ならではの四季や、そのなかで育まれてきた食の変遷や哲学、調理法や器に至るまで、日本の文化、歴史のなかに存在する和食という表現をしようという意外性に満ちた提案がきました。
日本人にはない発想に驚く部分もありましたが、MOMENT FACTORYらしいユニークな表現だと感じました。それらを彼らの得意とするデジタルを駆使して、「見る」「聴く」「触れる」などの五感をフルに使ったインタラクティブな展示で和食の魅力を再提案するような内容に仕上げることが出来ました。
―― その後、実際においしい和食を楽しめるという構成でした。飲食コーナーのコンセプトは、どのようにつくりあげたのでしょうか?
和食の魅力を見て、聴いて、触れていただくのですから、最後はやっぱり味わっていただきたいと、企画当初から考えていました。そこで、京都・美山荘の中東久人さんに監修いただき、来場した方全員にオリジナルの「神様のおいなり」をふるまうことにしました。
加えて、「神様のレストラン」と名付けた飲食コーナーでは、親子出汁巻、筑前煮、稲庭うどんや日本酒などを提供。期間限定ですが、菊乃井の村田吉弘さんの絶品和食や、ジョエル・ロブションによる和テイストのフランス料理の一品も用意しました。
料理人の方々にとっても、このようなエキシビションで食を提供する機会は珍しく、積極的に協力くださいました。
グループ内各社で総力を挙げた挑戦的なプロジェクト
―― 今回の企画において、ソニーミュージックグループさんの強みをどのように生かされましたか?
エキシビションのイメージソングや登場するキャラクターのボイス・キャストを、グループ会社であるソニー・ミュージックレーベルズ所属のアーティストが担当したり、事務局をソニー・ミュージックコミュニケーションズが担いました。グループの総力を挙げてエキシビションを行うのは珍しいことだったので、社内的にも大変注目度が高かったです。今後、エキシビションビジネスを拡大していく予定ですので、グループ内各社、各部署と横断的にチームを組む機会が増えそうです。
―― 今回の企画においてこだわったところはどこでしたか?
食に限ったことではありませんが、今回でいえば「こんな調理方法は存在しない」など、発信する情報に決して間違いがあってはなりません。しかし、そもそも私たちには和食の専門知識がない。情報が正しいという確証を得るために、いろんな資料を調べたり、専門家に確認をとるなど丁寧に取り組んでいきました。こうしたひとつずつ確認していく作業を通じ、改めて「食」の懐の深さや広がりなど、可能性を強く感じました。
エンタメ要素としての食の力を実感。新たな表現を探して
―― 具体的にはどのような可能性を感じましたか?
音楽の場合、好きなジャンルや好きなアーティストが決まっていて、興味のないライブやCDには見向きもしないという人がほとんどです。ところが「食」には、ある程度の好みはあるものの、不特定多数の人の興味を引き付ける力があります。
昨年、「KYOTO NIPPON FESTIVAL」という、食、音楽、アート、伝統文化を融合したエキシビションに、実行委員会のメンバーとして参画しました。京都吉兆さんにご協力をいただき、老舗店や注目をされているお店を集めるなど、食エリアにこだわった結果、そのエリアには予想をはるかに上回るお客様がお越しくださいました。反響が非常に高かったため、今秋も開催しますが、今回からは食エリアをさらに拡大する予定です。
食を軸とした新たな企画や組み合わせは、まだまだ開発の可能性があると感じています。食のプロフェッショナルとコラボしながら、より新しく、そしておいしく、おもしろい食の表現方法を提案していきたいと考えています。
―― 森さんのように次々と新しいことにチャレンジし、実現していくためには、どのような能力が求められるでしょうか?
新しい事業やこれまでにないエキシビションを始めるとき、自分一人や一社だけでできることには限界があります。異なる分野のさまざまな方のご意見やお力をお借りすることで、これまでにないまったく新しいものを生み出せられると思います。
成功を収めた事業やエキシビションでも、はじめから上手くいったものはほとんどありません。目先の利益にとらわれず、5年先、10年先を見据えて物事を考えられるかが重要です。
分野を超えて新しいコンテンツを生み出してきた森さんからは、「世の中をあっと言わせるような新しいものを提供したい」という熱い思いを感じました。これからも私たちにどんな驚きと感動をもたらしてくださるのか、楽しみです!
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