豊かな食資源を食べて、農村を守る
日本の農村の持続性が危ぶまれているという話題を耳にしたことはあるでしょうか? 2014年5月に日本創成会議・人口減少問題検討分科会が発表した「消滅可能性都市896のリスト」がきっかけとなり、地方の人口減少とともに農村の消滅が我が国の喫緊の問題となっています。日本に農村がなくなるとどのような問題が起こるでしょうか?
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京都大学学際融合教育研究推進センター 森里海連環学教育ユニット特定准教授
吉積 巳貴(よしづみ みき)
専門は、住民参加型まちづくり、地域づくり、村おこしなど。地域の文化と自然環境によって育まれる食文化の持続を通して、地域の持続可能性を実現する方法を模索する研究を行う。好きな食べ物は、その時々の旬な食べ物とそれに合うお酒。
日本の食料自給率は、先進国の中で最低水準
農村は農作物や魚介類や海藻など、国民の食料を供給するという重要な役割があります。しかしながら、我が国の魚介類の国内生産は減少傾向であり、さらに今まで自給率が高かった米の消費自体も減少しており、平成27年度では我が国の食料自給率は、カロリーベースで39%となっています。先進国の他国と比べると、アメリカ127%、フランス129%、ドイツ92%、イギリス72%。我が国の食料自給率(カロリーベース)は先進国の中で最低の水準と言えるのです。日本の農村が消滅すると、国内で食料を供給することもできず、食料を輸入に頼ることになります。そうなると、食を輸送する経費とエネルギーも必要になってきますし、食の安全性の確保も難しくなるでしょう。また他国の食料に依存することにより、国際社会においても不利な状況になる可能性もあります。
また、食料の供給以外にも農村には多面的役割があることがわかっています。農林水産省によれば、農村の多面的機能は、「国土の保全、水源の涵養(かんよう)、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、農村で農業生産活動が行われることにより生ずる、食料その他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能」と言われています。このように、農村の持続性は、我々が安全に生き続けていくために不可欠なものであることがわかります。
農業や漁業を支える、暮らしのなかの「食の選択」
それでは、どうすれば農村を持続することができるでしょうか? 農村が持続するためには、とにもかくにも農村に人が住み、その人たちにとっての働く場が必要です。そしてその農村の主要な働く場は農林漁業ですので、この農林漁業を持続させることが必要となります。農林漁業を持続させるためには、農村で供給された農作物、魚類、キノコや山菜などの山からの食資源が消費されなくてはなりません。つまり、農村からの食資源を食べることが、農村の雇用を支えることにもつながり、農村の持続性にもつながるのです。
現在、食事をする時、食料の買い物をする時に、何を基準にしていますか? 安さや、美味しさ、健康に良いか、また安全性でしょうか? これから、その基準にどこで作られたものか?も意識して選んでみてください。その食の選択が、すなわちその地域の農業や漁業を支えることになります。地方創生などで、農村や地方都市の創生の取り組みが実施されていますが、農村の食資源を食べることが、その地方や農村を守ることにもつながります。「食」を通して、地域のつながりを感じる社会になれれば、地方創生もおのずと実現できるのではないでしょうか。
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